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「やさしいデザイン」の可能性

 人の暮らしを豊かにすることがデザインの役割だとすれば、現在の人の生活に不安感があったり充足されない感覚がある領域に注目し、そこに適正なデザインを施すことによって、その状況を改善しようとすることが、デザイナーにとって自然な活動だと言えます。建築家は空間に関するデザイナーですので、建築空間をデザインすることによってそれを実現することが可能になります。

 建築分野におけるそのような領域として、社会的マイノリティ(高齢者、障害者、子供など)と言われる人達が、現在ある多くの建築空間を日常的に使う際に不安感や馴染めない感覚を持つことが多い、ということがあるのではないでしょうか。もちろんバリアフリーデザインやユニバーサルデザインというものはありますが、根本的な解決というよりは対処療法的なデザインに留まっている場合が多いのが現実です。もっと根本的に、社会的マイノリティの人達を中心に考えた建築空間をデザインするということが必要ではないかと思います。それは、「心地よさ」「安心感」「細やかな配慮」を感じる、広い意味での「やさしさ」というものを中心にしてデザインを構築することだと思います。当たり前なことに思えるかもしれませんが、現在、建築家がデザインする多くの建築空間においては、それが当たり前では無いところに、このテーマを考えることの重要な意味があると考えています。


 現在、建築家がデザインする多くの建築空間において、一般的には「新しさ」を目的にすることが価値あるものとして考えられています。「新しさ」つまり、今までに無い、どこにも無い未知の効果や体感を生み出すことを目的にするということですが、それは一方で今までに無い問題がそこに生じる可能性があるということを意味します。

 同じデザイン分野でも、例えばプロダクトデザインの場合は、多くの試作品を事前に作り予測される問題をクリアした後に市販されて、ユーザーの手に届きます。一方、建築空間デザインの場合は、基本的に建築全体の試作品を作ることはできません。(事前にコンピューターによるシュミレーションや部分的なモックアップを作ることで予測される問題をクリアしようとはしますが)また建築空間は、何十年という長い期間に渡って使い続けていくために、完成時にその後の長期に渡る使用期間中に起こる新たな問題を全て正確に把握することは、ほぼ不可能に近いのです。

 よって「新しさ」を目的としたデザインは、それを使用していく過程で生じる新たな問題をユーザーがリカバリーできることが前提になっていないと成立しません。問題をリカバリーするために、ユーザーには適応力や経済力が求められます。適応力とは問題が生じた時に、建築側を改善するのではなく人間側の適応能力でカバーするということであり、経済力とは問題を改善するための修理等にコストを掛けられるということです。

 つまり「新しい建築」を使用するユーザーは、ある種の適応力や経済力がある者に限定されます。建築家が生み出す「新しい建築」作品が、特別なクライアントとの共同作品であると言われる理由がそこにあるのです。

 

 一方で、社会的マイノリティと言われる人達は、その置かれている状況を考えると、特別な適応力や経済力がある者では無いでしょう。つまり、彼らを中心に考えた建築空間をデザインするということは、「新しさ」を目的とするデザイン手法では、成立しないことを意味しています。それでは「新しさ」に代わるどのような価値観が必要になるのでしょうか。先述したように、彼らが現在ある多くの建築空間に不安感を持っていることに考えを馳せると、「心地よさ」「安心」「細やかな配慮」を感じることができる、広い意味での「やさしさ」を感じることができるということが、重要な価値となってくるはずです。


 社会的マイノリティの人達を中心に考えた建築空間をデザインするということは、現在、建築家が建築空間をデザインする際に良しとしている価値観とは違う価値観でデザインを再構築することが求められると思います。「やさしさ」を中心に考えることは、建築空間のデザインを根本的に再検討するきっかけを作り出していると思います。

 人々の高度な高齢化や多様化が進行するこれからの社会では、社会的マイノリティと考えられている人達はいずれ多数派になると考えられます。そのような社会において「やさしいデザイン」を考えることは、目的としての「新しさ」ではなく、結果として「新しさ」を生む大きな可能性を秘めていると思います。(岩堀未来)






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