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素(しろ)の家

掲載誌

新建築2022年8月号(新建築社)

「弱い建築」としての住まい 

―高齢者のウェルビーイングを実現するアフォーダブル住宅―

 

1970年代に建てられた分譲集合住宅団地の一住戸をリノベーションした住まいである。施主は50代夫婦で、オフィスとしても使用でき,高齢化した時に心地よく楽しい生活ができることが求められた。団地内は数十年の歳月により緑豊かな公園のような環境となっている(第31回BELCA賞を受賞)。一方、既存住戸は高齢者にとっての身体的バリア(体力の低下や感覚の鈍化した時の使い難さや心地悪さ)や社会的バリア(他者との交流のし難さ)がある。この公園のような環境と繋つなげ既存住戸のバリアを解消するリノベーションを行うことで、従来のバリアフリー住宅という概念に留まらない高齢者のウェルビーイングを実現する良質でアフォーダブルな住宅ができると考えた。

既存住戸の3LDKの造作を解体して一室空間とし、豊かな緑と自然の光と風を最大限取り込み、広々として動きやすいかつての日本家屋の座敷のような場をつく作った。この一体的な場を,間柱または棚のようなものと配線部材を兼用した鴨居のようなものと蚊帳生地だけで柔らかく仕切り、一体感のある場の中に景色や明るさや大きさが異なる多様な場をつく作った。最小限の場仕切り(ばじきり)はライフスタイルに応じて手をかける余地があり、それぞれの場所の使い方を考えたり、仕事や趣味など他者との交流ができる場所をつく作ったりすることを可能にし、それが生活の楽しさや外との繋つながりを生み出す。

また十分な断熱、既存暖房パネルと床下に新設した水パックの蓄熱層を連動させた暖房システム、ウインドキャチャー等により、冬は放射による仄かな暖かさに包まれ夏は通風により涼を取とることができる。穏やかな温かさや風が、高齢者の低下した体力や鈍化した感覚に対して優しい環境を作り出す。

高齢者という弱い存在のウェルビーイングを実現するという目標に基づいてデザインした結果、周囲の環境と交流しながら長い時間を掛けて生活の創造を促していく余白のような「弱い建築」が生まれた。

2022年度日本建築学会大会建築デザイン発表会テーマ部門にて顕彰

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